社会保障は「コスト」でなく、成長の源泉
著者・盛山 和夫
光文社新書、定価840円+税
少子高齢化が日本経済にもたらす弊害は、成長の足かせになる社会保障費の膨張であり、財政再建の足を引っ張る錘(おもり)に他ならない。しかし、増税は国民の不興を買い、国債の増発は爆発寸前の財政悪化に拍車を掛ける。であれば、ここは経費削減。それも、成長に役立たない社会保障費の削減に大ナタを振るうしかない。これが、多数派経済学者やマスコミの一致した論調ではないだろうか。本書は、この常識に真っ向反論している。
医療費、介護費、児童手当などの社会保障費は、国民にとって本当に社会的な「コスト」なのだろうか。医療や介護に掛かる費用は、多くが医療・介護関係者の人件費や関連業界の売り上げになる。同様に、子供関係費も保母さんらの人件費になり、参入企業も急増している。こうした分野への支出が増えるということは、それが社会的に必要な“成長産業”である証しであり、現に雇用も増えている。
育児から解放される母親が仕事に出れば、投入する育児コストを上回る収入を得る“乗数効果”が見込まれるうえ、子供関連の社会保障は将来的な労働力の確保と成長の促進につながる。著者は、これを「共同子育て社会」の実現を通じた「生活革新型」成長路線と位置付け、この成長の呼び水になる原資として消費増税を挙げている。
財政赤字問題について、国債の大半が国内消化だという理由で楽観的過ぎるのが気になるが、これは少数派の意見ではない。また、規制緩和について、国鉄・郵政の民営化や宅配便の隆盛などを知ってか知らずか、その効果を過小評価しているキライがある。著者の提案する「共同子育て社会」が軌道に乗るまでにはかなりの年月が必要であり、それまでに高齢化による経済縮小の加速との「時間の闘い」になる可能性が高い。
何よりも、日本人の増税アレルギーは強く、「その前にムダの削減を」といったお決まりのセリフに終始する政治勢力も健在。そうした中で、「大幅な増税を」と主張することは、それが正しい方向であっても国民的な合意を得るのは厳しいのが現実だ。それでも、「社会保障は少子高齢社会の成長戦略」との主張には大きな説得力があり、目からウロコの1冊である。 (のり)