格差拡大を防ぐための真しな提言書
著者・駒村 康平
角川新書、定価820円+税
かなり刺激的なタイトルだが、著者はれっきとした経済学者で政府の社会保障制度改革国民会議の委員を務めるなど、幅広いものの見方ができる専門家だ。その著者が、日本の格差拡大を警告した『大貧困社会』(2009年)から状況がさらに悪化しているとして、続編をしたためたのが本書だ。
前半は、各種統計を使った格差拡大の証明。経済のグローバル化によって、世界的に拡大する格差は日本も例外ではなく、格差指標であるジニ係数や相対的貧困率の上昇、所得格差の拡大、生活保護世帯の増加など、関連統計を駆使して「分厚い中間層の崩壊」ぶりを詳述している。
後半はそれに対する処方せん。国民会議での議論の結果、12年に政府が打ち出した「社会保障・税の一体改革」では年金、医療・介護、子育てなどに新制度を導入する一方、当座の財源として5%の消費増税を決めたが、現政権が8%で足踏みしたことから、一体改革の実効性に赤信号がともった。著者の焦燥感が伝わってくるが、仮に税率10%でも一体改革が強力に進む可能性は低い。さらなる増税の必要があるが、著者は注意深く避けている印象を受ける。
全体に、前半の格差立証よりも、後半の国民会議での議論や生活保護地区などの取材といった、具体的な部分の方に迫力がある。とりわけ、高齢者対策には従来の縦割り保障では限界に来ているとして、これらを総合した横断的保障の必要性を説く著者の視点は傾聴に値する。また、こうした大課題に対して、想像力を欠いた官僚や有識者が少なくないという指摘も興味深い。誠実さにあふれた1冊である。 (のり)