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2015年1月 3日

【この1冊】『"働くこと"を問い直す』

「労使関係」の本来の意味とは

c150103.jpg著者・山崎 憲
岩波新書、定価780円+税

 

 「労使関係」と言うと、企業の経営者と労働組合の関係だと思うのが普通であろう。しかし、著者によれば、それはごく限定された狭い考えに過ぎず、本来は社会システムのあり方、一人ひとりの社会参加の方法、何のために生きるのかを決めるための仕組みだったという。「労使関係」は「人はなぜ働くのか」という根源的な問い掛けに答えるものでなければならない。

 本書は、そうした問題意識に基づき、「働くこと」の意味、日本的労使関係システムの成立、転機(日本企業の海外進出)、日本の「働かせ方」が壊したもの、「働くこと」のゆくえ――の5章に分け、産業革命、米国自動車産業、日本的システムの成功と崩壊など、産業革命以後の歴史や現状を織り交ぜて論じている。

 とりわけ、日本の場合、高度成長を背景に緊密な労使関係が構築されたにもかかわらず、企業の海外進出をきっかけにその関係が崩れ、政府、経営者、労組ともに成長のつまずきと非正規労働者の増加という問題に対応できなかった。その結果、「なぜ働くのか」という原点が完全に忘れ去られてしまったのだ。

 著者の論理構成は理念的で記述も難解な部分が多く、必ずしも上記のような現状分析に適しているとは言い難い。しかし、米国で広がっている「参加型民主主義」「コミュニティ・オーガナイジング」といった、新しい労使関係を模索する動きを紹介するなど、行き詰った日本の労働・社会制度にとってヒントになりそうな内容も含まれており、じっくり読みたい1冊である。 (のり)

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