法理論と労働現場の矛盾をあぶり出す
著者・小嶌 典明
中央経済社、定価2200円+税
長年、政府の労働政策審議会や労働関連シンポジウムなどの取材を重ねていると、本書のタイトルと同じ気持ちになることが実に多い。筆者は、大阪大学で労働法制を専門に研究してきた第一人者だが、バリバリの学者でありながら、法制度と労働現場の矛盾やズレを、実務家も驚くほど的確に指摘する。
本書では「基本ルールの現場の心得」から「程良い規制を求めて」まで、15章にわたって関連法の条文や判例などを引用しながら、問題点をえぐり出す。改正労働者派遣法で禁止された「日雇い派遣」の例外として、「世帯年収500万以上の人はOK」にした政省令のトンチンカンぶり。改正労働契約法における「5年ルール」(有期契約社員が5年以上働けば、会社に無期雇用を申し込める権利)によって非正規社員の雇用が安定すると短絡的に判断した厚生労働省。また、労働法の適用を受けない公務員の“天国”ぶりにも触れている。
法律論をベースにしているため、易しい文章ではないが、著者が求める「程良い規制」というものの本質が理解できる良書。労働法学者は「立場の弱い労働者」の味方であり、「強い」企業に厳しく当たるのが一般的だが、現実はそう単純ではない。派遣法に代表されるように、ある層の労働者を守っても、それ以外の労働者には自由な就労の妨げになる制度は幾らでもあるからだ。
それは大内伸哉氏ら良心的な学者も認めているところであり、現場実務を知らなければ、学者と言えどもまともな論陣は張れない時代。公労使が集まって政策協議する労政審が形骸化しつつあるのも、現場を知らない識者が多いからであろう。 (のり)