年代別紹介方式で、製作時の時代背景をえぐる
著者・狩野 良規
図書刊行会、定価2400円+税
著者は大学院で欧州文化論を教える欧州文学・演劇・映画の研究者であり、本書は3月に出版された同名書の待望の続編である。
著者によれば、もともとはヨーロッパ映画100本を紹介するつもりで書き下ろしたが、「正篇は空間的な、続篇は時間的な区分け」と区分し、本書では歴史年代別に50本の映画を並べて紹介している。
特徴的なのは「時間的な区分け」といっても、映画の舞台になっている時代ごとに、第1章の「古代」から第12章の「現代社会」まで、それぞれの映画が製作・公開された時代背景についても言及している点であろう。
例えば、最初に解説しているパゾリーニ監督の『アポロンの地獄』(1967年、イタリア映画)の舞台は古代ギリシャだが、「この映画は『過激な60年代』を代表する1篇である。・・・(60年代)の反体制運動はすなわち、西洋中心主義と近代文明を問い直す精神の発露でもあった。そんな激動期の気風をスクリーンに活写した映画界の寵児がゴダールとパゾリーニだった」と解説している。
こうした視点は、映画も他の芸術と同様に、それぞれの時代の産物であることを示しており、映画をあまり見ない人でも、欧州の歴史に興味があれば正編と合わせて一読の価値がある。 (酒)