在野の知識人の人生論
著者・渡辺 京二
文春文庫、定価750円+税
著者は、幕末から明治初期にかけて訪日した外国人に日本がどう映ったかをまとめた『逝きし世の面影』(1998年)で一躍有名になった熊本県在住の「在野の評論家」である。本書は84歳になる著者が自らの人生を振り返りながら、「生きることに苦しんでいる人にエールを送りたい」と語りおろした。
著者は「人間の在り方としては、無名のまま死んでいくのがいい」とし、「野垂れ死に」こそが理想の死に方だと言う。子供の頃から好きだった「文章を読んだり書いたりすること」で成功し、文筆業で生活の資を稼げるほど有名になった著者が、いくら「無名の人生」を説いても説得力はない、と感ずる人もいるかもしれない。
しかし、「個人主義」が蔓延し、ネットの世界で「自己顕示」を競い合っているような昨今の風潮に対して、成功も出世も自己実現も「人生においてくだらないことだ」と真正面から喝破する人生論に、ある種のすがすがしさを感じる人も少なくはなかろう。老若男女を問わず、「生きるのがしんどい」と感じている人にはぜひ勧めたい。 (酒)