各国史から人類史へ刻々と変化する世界
著者・入江 昭
講談社現代新書、定価800円+税
著者は高校卒業後、貨物船で渡米し、シカゴ大、ハーバード大で長年教鞭をとってきた日本人の代表的歴史家である。
歴史研究のあり方が、各国史の寄せ集めから、国境を越えた「トランスナショナル」の動きをとらえる「グローバル・ヒストリー(人類史)」へと大きく変化してきた流れを、自らの研究史と重ね合わせるとともに、トランスナショナルな世界史の通史を踏まえ、現代史の特徴について簡潔に解説している。
具体的には、「歴史をどうとらえるか」(第1章)で、基本的な視座を提示。そのうえで、「揺らぐ国家」(第2章)、「非国家的存在の台頭」(第3章)、「伝統的な『国際関係』はもはや存在しない」(第4章)と近代の主役だった国民国家の変容を説明。今後の方向としては、「普遍的な『人間』の発見」(第5章)、「環地球的結合と言う不可逆の流れ」(第6章)を説いている。
要するに、「人類は一つで多様性と共通性を重ね持ち、自然とは相互依存関係にあり、社会も文化も刻々と変化しつつあるのが現代の世界である」というのが著者の主張である。しかし、いずれ到来するはずの「ポスト近・現代」のイメージはほとんど見えてこないため、次の時代のイメージを期待する読者は失望するかもしれない。それでも、グローバル・ヒストリーに興味を持つ人にとっては必読書である。 (酒)