ビースタイル ヒトラボ編集長 川上敬太郎氏
サッカーのワールドカップ開催中に起きた射殺事件。
今から20年前の1994年、アメリカで行われた大会で強豪国コロンビアは1次リーグで敗退した。決定的だったのは、味方のオウンゴール。当事者であるエスコバル選手は戦犯扱いされ、母国で12発の銃弾を受けた。
引き金を引いた側にすれば、余程腹が立ったのだろう。強豪国だけに、優勝を期待していたのかもしれない。
1984年春のセンバツ高校野球。スーパースターの清原、桑田を擁するPL学園に挑んだ都城高校。試合は接戦となり、スコアレスのまま延長戦に突入。11回裏2アウト。外野にふらふらっと上がったフライは、都城高校外野手のグラブからこぼれて地面に落ちた。
自らのエラーによってチームが負けた後、10代の高校生に一体どんなプレッシャーがのしかかったのだろうか。
真剣に戦い、ガムシャラに勝利に向かい、一生懸命に取り組んだ選手が自ら望んでミスを犯すはずがない。ミスに限らず、調子が上がらなかったり、実力が足りなかったりすることもある。その一試合にすべてを賭けて臨んだ結果が期待を裏切るものだった時・・・。
最も落胆し、誰よりも傷ついているのは選手自身である。
感情移入し過ぎたファンは、時に愛情を裏返しにしたような罵声を選手に浴びせかける。それくらいの厳しさがなくては強くなれないという意見もある。しかし、誰よりも悔しいのは罵声を浴びせている方ではなく、間違いなく浴びせられている方である。
通常国会で廃案となった改正労働者派遣法案は、行政のミスが影響していると言われる。ミスに最も落胆し傷ついているのは、懸命に法案を作成した担当者自身に違いない。
真剣に戦っている者が全身全霊を賭して成し遂げようとした結果。それが望ましいものではなかったとしても、その結果は貴い。自分の代わりに戦い抜いてくれた者に贈るべきは銃弾であってはならない。自分の夢を託した相手に贈るべきは、やはり「ありがとう」という感謝の気持ちなのだと思う。