人材ビジネス草分けの40年史
著者・篠原 欣子
日本経済新聞出版社、定価1600円+税
本書は2013年6月、日本経済新聞の「私の履歴書」に連載したものを大幅加筆したリメーク版。「私の履歴書」に出る人物は大体が功成り名を遂げた有名人で、苦労はしたが「わが人生に悔いなし」といった“自己満足”が大半。しかし、本書はちょっと違うのだ。
テンプスタッフは著者が1973年、都内のアパートの一室に設立した人材派遣会社。業績を順調に伸ばし、2006年に東証1部上場、08年に持ち株会社(テンプホールディングス)に移行し、13年に会長職に退いた。日本を代表する女性経営者の1人として、知名度も抜群だ。
ところが、本書で多くを割いているのは創業時の苦労のほか、それ以降は「女性組織」の限界、システム構築の試行錯誤、派遣スタッフ名簿流出事件への対応など、もっぱら著者にとって「名誉」とは言えないエピソードが綴られ、米フォーチュン誌に12年連続で「世界最強の女性経営者50人」に選ばれたことなど、まったく触れていない。
会長になってからも、派遣などの“本業”は後継者に任せ、保育・医療などの分野に精力を傾けているという。「わが人生」を総括している様子はうかがえず、それが本書のタイトルにもなっている。
本書からは著者の経営理念はもちろん、日本の人材派遣がどのように生まれ、育ってきたかという歴史もわかる。「女性の就労の場を提供する」という、今では当たり前になったビジネスも、著者のような草分けがあったればこそ、との思いを深くする。 (のり)