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2014年5月29日

木曜日のつぶやき126・龍馬の眼

ビースタイル ヒトラボ編集長 川上敬太郎氏

 日本を今一度せんたくいたし申候―――。

 薩長を同盟に導いたとされる坂本龍馬の視点は、藩という単位を超越して日本国全体に向けられていた。薩摩や長州それぞれの藩の体面はもちろんのこと、薩長と幕府の争いでさえ、日本国全体の視点に立てば無益に感じられたはずである。

c140529.jpg いかなる戦いにおいても、相手から見て最も楽なのは自滅である。戦う前から疲弊し、戦力を下げた相手に脅威など感じるはずもない。内紛で自国が消耗していく様を、「日本人」であった龍馬はどんな思いで眺めていたのか。

 今の日本は平和である。1945年(昭和20年)に大東亜戦争が終結して以来、70年近く戦争をしていない。黒船到来以降、列強の脅威に悩まされていた幕末とは環境が異なるように見えるが、実際はどうなのだろうか。国際社会の視点に立てば、安全の保障などどこにもない。

 「まとまりのない業界ですね」。

 古くから人材派遣業界を知る、ある厚生労働省官僚から言われた言葉。外部から見れば一目瞭然なのだろう。かつて列強が、幕末の日本を見ていたように。

 数年前、知っているのかと実家の父から連絡があった。父の愛読する雑誌に掲載された人材派遣業に関する記事のタイトルには「悪魔のビジネス」とある。一部の悪質事業者への糾弾は当然としても、人材派遣業を「悪魔のビジネス」と言われて傷つくのは、業界に関わる人すべてだ。

 有名歌手の覚醒剤事件から飛び火した、大手人材派遣会社にまつわるゴシップ。事業の本質とは全く無関係のゴシップに傷ついているのは、同社で真しに雇用創出に励んでいる社員たちに他ならない。

 マーケットの中においてはライバルである同業他社。しかし、人材サービスを通して日本社会に雇用を創出しようとする目的は同じ。かつて龍馬が藩の垣根を越えて自ら「日本人」と称したように、「業界人」という視点に立てば、ゴシップの痛みは他人事ではなくなる。

 人材サービス業界に従事する者はみな、同志なのである。

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