経済事象を基礎からじっくり考える
一橋大学経済学部編
有斐閣、定価1800円+税
本書は経済学にまつわる「得体の知れなさ、取っつきの悪さ」というイメージを払しょくするため、社会科学の専門大学である一橋大学経済学部の研究者らが手分けして書いた意欲的な啓蒙書。「教養」という、どこか懐かしい言葉をタイトルに掲げたのも、大学ならではだ。
第1章では経済成長、貧困、財政、医療、イノベーションといった基礎知識をわかりやすく解説。続いて「経済学的な発想」「経済史」「プロの経済学」の全4章にわたり、各分野の専門家たちが筆を取った。いわば、経済学部の学生に対する講義を凝縮したような入門解説集となっている。
ただし、読む側が「教養」として学ぶ以上、手っ取り早くわかる内容にはなっていない。全章すべてを理解するには、かなりの忍耐と集中力が必要だ。白か黒かの議論ではなく、白か黒かを分析、判断する考え方や背景を解説しているからだが、その後に新聞記事などを読むと、いつの間にか“自分で”判断できるようになっているから面白い。
本書のまえがきでは、「メディアの取り上げる社会事象には、簡単に賛否の判断のできない、複雑な事情が控えていることが多い」と述べている。「TPP亡国論」「ヤバい経済学」など、およそ品性を感じさせない経済俗論が幅を利かせている現代にあって、珍しいほどの実直さが伝わってくる。こんな研究者たちのいる学問の府があることを感じられるだけでも、本書の価値は十分。 (のり)