憲法を巡る議論の歴史を包括的に解説
著者・東谷 暁
朝日新書、定価820円+税
著者は元雑誌の編集者だが、1997年以降、フリーのジャーナリストとして時代の最先端のテーマについて、非専門家の立場から発言している「在野の知識人」である。
今後、本格化すると予想される憲法改正に関わる議論を、憲法学者や政治家とは異なる立場から包括的に解説しており、宣伝文句の通り「日本国憲法を巡る議論の歴史が1冊でわかる!」。
まず、改憲論者の96条先行改憲論の欺瞞(第1章)を指摘するとともに、護憲論者を精神分析する(第2章)形でその矛盾を指摘。「日米合作憲法」の病理(第3章)について述べ、東大憲法学の迷走(第4章)を批判する。さらに、失われる「戦後からの脱却」(第5章)と「法普遍主義」というグローバリズム(第6章)、象徴天皇を巡る論争(第7章)に触れつつ、「9条が繁栄をもたらしたのか」(第8章)と問い掛け、最後に「人間にとって法とは何か」(第9章)と問題提起している。
憲法改正は9条問題だけでなく、さまざまな論点があり、最も本質的な問題として、様々な論点を統合する一つの価値体系としての倫理・道徳を改正の根底に置く必要がある。これが筆者の主張である。
ジャーナリズムでは極めて単純化して語られる憲法改正問題の本質や奥行きを理解するためにも、改憲派・護憲派を問わず、すべての日本人に一読してほしい。 (酒)