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2014年4月26日

【この1冊】『日本経済の呪縛』

「金融資産」は幻想に過ぎない

c140426.jpg著者・櫨 浩一
東洋経済新報社、定価1600円+税

 


 戦後、多くの日本人は「豊かな生活」を目指して働き、生活水準を上げて行った。それが一段落すると、今度は「豊かな老後」を目指してお金をせっせと貯め、今や個人の金融資産額は1568兆円(昨年3月末)の巨額に達している。

 ところが、国全体の「純」金融資産になるとわずか300兆円。なぜか?答えは簡単、膨大な国債発行残高で帳消しになっているため。日本は経済成長の目的だった「金融資産の厚みを増す」という長年の呪縛(じゅばく)から解き放たれ、バランス感覚を重視する必要がある。著名エコノミストによる、ユニークな「お金持ち限界論」だ。

 本書のキーワードは、「金融資産=債務」という点にある。すなわち、銀行預金は預け入れる側にとっては資産だが、銀行にとっては負債。国債も購入者にとっては資産だが、政府(さらには国民全体)にとっては負債だ。金融資産が厚くなれば、その分だけ負債も厚くなり、90年代後半に発生した金融システム危機のように、両者の不均衡が拡大すると深刻な問題を引き起こす。

 それは、国家間の関係も同じで、その典型がギリシャの国家破綻。ギリシャは膨大な財政赤字が発端となって破綻したが、その対極にあるドイツなど黒字国の責任も問われる。ドイツの経常黒字がギリシャの経常赤字につながり、不均衡が破裂するまで有効な手を打たなかったからだ。

 本書は「増加する金融資産」から「取り組むべき課題」まで11章で構成。金融資産やお金の正しい理解などの基礎編から、日本のバブルとバブル崩壊、その後のデフレ、世界的な超金融緩和などの時事編まで、幅広く解説している。

 マクロ経済の話だからケタ違いの数字が飛び交い、スラスラ読み進める内容ではないが、それでも“専門書”よりははるかにわかりやすい。本書の序に「資産価値の問題には優れた本が多いが、多くは専門家向けだったり、議論が一面的だったりする。新聞の経済欄は断片情報だけで、問題の全体像の把握は難しい」とあるが、的確な指摘だ。

 日本が経常黒字国から経常赤字国に「転落」しつつある昨今、本書のエッセンスを頭にたたき込んでおけば、メディアの「断片情報」には惑わされません。 (のり) 

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