AKBは「現代日本の縮図」なのか
著者・坂倉 昇平
イースト新書、定価860円+税
硬軟双方の評論家からさまざまに論評されているAKB48グル―プだが、今度は「AKBはブラック企業か?」という労働問題に絡めた刺激的なタイトルの書が登場した。著者はブラック企業問題の第一人者で、雇用雑誌「POSSE」の編集長。
直接のきっかけは、2013年初に発生した峯岸みなみの恋愛スキャンダルに絡んだ丸刈り事件。著者はこの事件にAKBとブラック企業の類似性を見たが、それだけでは不十分と思い、多くの楽曲の中から歌詞の分析を中心に考察したという。
主に、AKBは①労働問題のショーケース②それは日本の労働問題のシミュレーション③多くの歌が現代のワークソング(労働歌)の見本市――の3つの観点から議論を展開。「大人になんかなりたくない」「競争してチャンスをつかめ」「傷つくことを恐れるな」「AKB48は日本の労働を変えるか」など6章で構成している。
楽曲の「偉い人になりたくない」は現代の格差・貧困問題にまで射程を伸ばしたおちこぼれソング、「恋するフォーチュンクッキー」は貧困とブラック企業を歌っている――。こんな感じの解説が続くのだが、初恋ソングや“元気出せ”ソングが圧倒的に多いAKBの歌が「労働歌」だなんて考えてもみなかった。
そう言われれば、選抜総選挙と非選抜組の格差やグループ間の人事異動(「大組閣」と呼ぶお祭り)、握手会などファンとの直接接触、ドラフト制度の採用といった、組織内の激しい競争や人気の評価手法など、どこか日本の企業社会とダブる部分もないわけではなく、透明な部分と不透明な部分が混在していることは感じられる。
ただ、著者は実に注意深く、「AKBはブラックだ」とは断定していない。それどころか、歌詞の深読みや詳細なメンバー情報などから、要するにAKBの熱狂的ファンであることをうかがわせる記述が圧倒的に多い。そうならそうと、むずかしい解説なんかやめて、「AKBは日本の未来だ」とはっきり言えばいいのに。インテリは素直じゃないな。 (のり)