日本史に造詣の深い2人の歴史家による提言
著者・ジョン・W・ダワー、ガバン・マコーマック
NHK出版新書、定価860円+税
2人の著者は日本史に造詣の深い、米国と豪州の著名な歴史家である。
著者たちによれば、現在の中国、韓国、ロシアとの領土問題や「歴史問題」や「沖縄の基地問題」などは、これらの国を排除した“片面講和”として締結されたサンフランシスコ条約と日米安保条約を基盤とする「対米従属体制」に起因するものだと言う。
米ソ冷戦の開始もあって、米国による日本占領の終了後も、日本は「沖縄を本土から分離し、米軍政下に置くことも文句も言わずに受け入れた」し、その後も様々な局面で日本の対米従属は強まるばかりで、弱まることなく現在まで続いている、という。
このような日本の状況を、ダワー氏は日本の「従属的独立」と呼び、マコーマック氏は端的に「米国の属国」と呼ぶ。しかし、日本では「対米従属」を推進する人が、愛国者、ナショナリストであり、「反米的」発言をする人や「対米自立化」を志向する人が国益に反する「非国民」と呼ばれたりする一種の倒錯が起こっているという。
ただ、現在、「中国、日本、韓国では歴史戦争の火を絶え間なく燃え上がらせることに人々が執着しているが、永続的憎悪に満ちたナショナリズムからは希望の持てることは何も生まれない」と言うのが著者たちの立場である。
では、希望はどこにあるか。ダワー氏は次のように書く。「未来の希望は、1970年代に始まる中国との関係正常化とともにあった平和的統合というビジョンにたちかえることに、そして、このような楽観的な構想に実態を与えるような数多くの具体的な領域にわたる協力関係と経済の相互依存を強化することにある」。つまり、国民国家のナショナリズムを超える「地域共同体」、具体的には「東アジア共同体」に向けた動きを推進すべきだ、というのが著者たちの提言である。
しかし、著者たちも気づいているように、現実には極めて困難な道である。日本国内ですら、日本の歴史について「自由主義史観」を持つ人々が、自分たちの「歴史観」に従わない人々を「自虐史観」として激しく論難し、「二つの歴史観」の対立は深まるばかりだからだ。
いずれにしても、本書は戦後日本の歴史を外から見た、きわめて有効な内容に満ちている。特に、ナショナリズムの火にとらわれている人には一読を勧めたい。 (酒)