難病患者・家族の多様な療養と生活実態
著者・蒔田 備憲
生活書院、2200円+税
国の難病対策が大きく前進しようとしている。昨年から一部の疾患が障害者総合支援法のサービス対象になり、これまで法的裏付けのなかった難病対策が「難病法」として法制化され、今国会での成立が見込まれるなど、難病患者・家族らにとって制度改革の光が当たろうとしているからだ。「難病法」では医療費助成の対象疾患や予算が大幅に増え、就労支援にも本格的に取り組む総合支援の性格を強めている。
しかし、その一方で、一口に「難病」と言っても、どんな病気があるのか。それ以外の病気と何が違うのか。難病患者・家族はどんな生活を送り、何を考えているのか。何が生活の支障になっているのかなど、肝心な実態が社会に十分知られているとは言えない。本書ではそれらがすべてわかる。
これまで、医療関係者による治療研究書や患者自身による手記などは多かったが、本書は50疾患ほどの難病患者・家族について、発症、治療、生活、仕事などを網羅的に取材し、平易な言葉で客観的に描いた貴重な記録集だ。合わせて、難病対策や福祉制度の解説、支援者の活動ぶり、識者インタビュー、患者同士の座談会なども収録し、患者らを取り巻く環境も解説している。
著者は毎日新聞佐賀支局記者で、地方版の連載記事に加筆してまとめたもの。取材対象こそ佐賀県内を中心にしているが、全国のどの患者・家族にも当てはまり、引いては日本の社会福祉のあり方にも一石を投じている。記者が「足で書いた」見本のような1冊。 (のり)