新進気鋭の哲学者が「日本哲学」を概説
著者・小川仁志
朝日新書、定価760円+税
著者は最近の「哲学ブーム」を主導している1970年生まれの新進気鋭の哲学者の1人である。
著者によれば、「人が善く生きることを求めて、物事の本質を探究する営み」が哲学であり、「日本国を代表する統一的な思想は『日本哲学』と呼んでいい」とする。しかし、「日本と言う国のアイデンティティ」が見えなくなっており、本書ではそれを求めて日本の思想を遡行(そこう)する。
「日本哲学のはじまり―神話と仏教」(第1章)に始まり、「日本の美学―武士道と儒教」(第2章)、「再び神を求めた日本人―国学と幕末の思想」(第3章)、「西洋のニッポンの始まり―啓蒙思想とナショナリズム」(第4章)、「普遍性を目指した日本哲学―京都学派とその時代の哲学」(第5章)、「アメリカの日本から世界の日本へ―戦後民主主義と現代思想」(第6章)、と概観したうえで、あるべき「ニッポンのカタチ」(第7章)を説く。
結論は、日本社会の「お互い様」という古くて新しい共同体精神を、グローバルな「徳」とする「文化国家」を目指すべきというもの。ただ、過去の歴史のマイナス面を「自虐史観」として切り捨て、「日本の良い面」のみを強調し、近隣諸国から非難を浴びている「歴史修正主義者」と同じ「日本礼賛」に終始している点は気になる。 (酒)