ビースタイル ヒトラボ編集長 川上敬太郎氏
歴史に「もしも」はないと言うが―――。
金メダルの期待がかかるソチオリンピック・女子フィギュアスケート日本代表の浅田真央選手。彼女が15歳の時、もしトリノオリンピックに出場していたら、どんな結果になっていただろうか。当時は年齢が規定に達していない、という理由で出場できなかった。
それよりもさらに古い話。当時世界最強のランナーとして呼び声の高かったマラソンの瀬古利彦選手は、モスクワオリンピックに出場できなかった。日本が政治的理由でボイコットしたためだが、もし瀬古選手が出場していたら金メダル間違いなしだったという人は多い。事実、同年行われた福岡国際マラソンで、瀬古選手はモスクワオリンピック・男子マラソンの金メダリストを破って優勝している。
選手として最高のパフォーマンスが発揮できるピークは限られている。そんな人生最高の時を最高の場所で迎えることができなかった気持ちはどんなものか。選手たちに責任はない。オリンピックでの悲劇として語り継がれるものに、ミュンヘンオリンピック事件がある。「ブラックセプテンバー」と名乗るテロ集団によって、11人の選手・コーチの命が奪われた。選手と無関係な事情で、選手の選択肢を奪う罪の深さたるや。
労働者派遣法は、1月29日に労働政策審議会が「再改正」に向けた報告書を取りまとめた。大きな改善もみられたが、サービスに関わる当事者の声からかけ離れていると強く感じる「平成24年改正法」の項目は見送られたままだ。法制度の不具合によって、働く者の選択肢が奪われる。日雇い派遣の原則禁止しかり、2010年に行われた「専門26業務派遣適正化プラン」(長妻プラン)しかり。
あす7日に開幕するソチオリンピックの日本代表選手には、出場できる喜びを味わいながら最高のパフォーマンスを発揮して欲しいと願う。かつて、自らの意思と無関係に選択肢を奪われてしまった選手たちの分まで。