若者雇用問題の本質に切り込む
著者・濱口 桂一郎
中公新書ラクレ、定価880円+税
労働政策研究の第一人者として精力的な活動を展開している著者が、若者の雇用問題に切り込んだ。ブラック企業、非正規雇用、限定正社員など、若者の雇用を巡る環境は激変しており、学生の就職活動にも少なからぬ影響を及ぼしているが、本書はこうした問題がなぜ起こっているのか、労働法制の歴史をからめながら解説している。
著者によれば、現在の労働問題を的確に分析するには、日本型雇用システムやそれと密接に結びついた教育システムの本質を踏まえた議論が必要という。それは、法制度のうえでは欧米と同じ「ジョブ型」制度であるにもかかわらず、戦後日本では「メンバーシップ型」制度が主流となった矛盾として露呈。高度成長期はこの矛盾も吸収でき、若者の雇用問題は生じなかったが、低成長、人口減の現代では矛盾を吸収し切れなくなり、欧米と同様な若者の雇用問題が顕在化してきた、という。
そのうえで、本書では中長期的なジョブ型労働社会への移行を展望し、当面は正社員と非正社員の間に「ジョブ型正社員」という第3の雇用類型を確立する処方箋を描いている。
問題の所在が明確にならず、モヤモヤしたまま就活に苦労している学生にはぜひ勧めたい1冊だが、就活ノウハウ本のような「自己分析はこうせよ」といったたぐいの手軽な内容は一切ない。また、「さしあたっては何の役にも立たない、職業経験も知識も持たない若者」「学生の職業展望に何の利益ももたらさない大学教師」など、著者特有の毒舌は健在だが、それでも自身が認めるように、全体にこれまでの著作よりはるかに読みやすくなっている点は大いに評価できる。 (のり)