ビー・スタイル ヒトラボ編集長 川上敬太郎氏
東京都三鷹市で起きた女子高生の殺人事件は、何とも言えない後味の悪さを残した。
数々のドラマに出演し、タレントとして活躍できる将来もあったはず。ご両親の喪失感は計り知れない。ストーカーと化した加害者もまだ21歳。色々な未来予想図を描くことができたはずだが、何らかの思い込みに縛られ、取り返しのつかない事件を起こした。
誰も幸せにならない結末ほど、後味の悪いものはない。
一方、ネット上ではさまざまな情報が飛び交った。プロスポーツ選手が心ない書き込みをして謹慎処分を受けるという事態も起きた。飛び交った情報に対し種々の意見があるのだろうが、そのような会話をしたところで誰も幸せにはならない。
手塚治虫さんの漫画「ブラックジャック」の中に、印象に残っているエピソードがある。人のものを奪うクセのある犬が、財布を盗んで家の外に飛び出した。住人は犬を追いかけ、厳しく責めた挙句、元の場所に戻すよう指示する。渋々家の中に犬が戻ったところに大きな地震が起きた。家は倒壊し、犬は下敷きとなった。
その犬はいち早く地震を察知し、住人を外へ助け出そうと財布をくわえて飛び出たのだ。
人は思い込むと脇目も振らず、目的へ突き進む性質がある。それが良い方向に向かう時は凄まじいエネルギーとなり、人を幸せへと導く。人類はそうやって、文明を進歩・発展させてきた。
しかし一度負の方向へ向かうと、そのエネルギーは人を不幸の世界へと吸い込む。映画「スターウォーズ」で描かれているダークサイド(暗黒面)とは、まさにこういうことをいうのだろう。
一部の悪質な違法事業者のお陰で原則禁止となった日雇い派遣。派遣は悪だ、日雇い派遣は悪の権化だとの思い込みが、日雇い派遣を必要とする労働者の選択肢を奪った。原則禁止が決まった時、日雇い派遣を必要とする労働者からは「死ねと言われているも同然」という声すら聞かれた。
日雇い派遣を禁止すれば、雇用は安定するという思い込み。それが導く先にあるのは、果たして幸か不幸か。
それでも法律は修正することができる。元に戻すどころか、より良い状態に作り変えることができる。誤った思い込みが一時的に人を不幸に導いたとしても、その事実に気づきさえすれば取り返すことができる。
しかし命は、どんなにあがいても帰ってはこない。