「抵抗勢力」を明快にあぶり出す
著者・八代 尚宏
ちくま新書、定価720円+税
日本にとって古くて新しいテーマである「規制改革」について、改革派の立場から問題の本質や背景をえぐり出した好著。新聞などのメディア報道だけではなかなか伝わって来ない、複雑な事情が透けて見える。
本書では労働市場、農業、医療、介護・保育、教育、都市・住宅の6分野を取り上げ、なぜ規制改革が必要なのか、それを妨げているのは何か、を詳細に解説。労働分野では、一例として労働者派遣制度を取り上げ、「雇用の不安定」を理由に派遣などの有期雇用を規制すると、結局は失職者を生むだけと指摘。解雇規制の見直しを含む「正社員改革」と一体でなければ真の解決にならない、と喝破(かっぱ)している。
同様に、農業では農協の存在が改革を妨げている要因の一つであり、医療、保育、教育では「非営利事業者」の独占による民間参入の規制が壁になっている、と指摘。新規参入による競争の導入を嫌い、「民間は利益至上主義」と決めつける共通点を持つ。どれも、従来から指摘されながら、改革が進まない“岩盤”ばかりだ。
現在まで残っている諸規制は戦後の高度成長期に形成されたものが多く、現代ではその役割を終えたにもかかわらず、既得権益となって改革を妨げている、という基本的な視点に立ち、「弱者保護」「公平の維持」といった反対勢力の理由付けは、問題の本質をそらすカモフラージュに過ぎないと一蹴する。
容易に進まない規制改革の、どこを押せば進展が望めるのか。本書を読み進めると、それが見えてくる。記述も明快だ。 (のり)