社会思想の個人研究史とグローバルな社会思想史の連動
著者・田中秀夫
京都大学学術出版会、定価2000円+税
著者は1949年生まれの団塊の世代であり、学園紛争を経験する中で、当時、アダム・スミスやマックス・ウエーバーらの研究者が主張する「市民社会論」に魅了され、研究生活に入った社会思想史の研究者である。
その著者が京都大学の定年退職を控え、自らの研究史をまとめたのが本書であるが、結果的に70年代以降のグローバルな社会思想史と見事に連動している。
近世から近代に至るケンブリッジ学派やスコットランド啓蒙思想をグローバルな視点から考察しており、類書が少ない中で、「近代社会とは何か」をめぐる日本およびグローバルな思想史を概観するにはきわめて興味深い著作である。
また、一時的にしろ研究者を志したが、挫折して平凡なサラリーマンになった評者にとっては「あり得たかもしれない研究者としての人生」を追体験でき、著者と同じ団塊の世代にとっては「あり得たかもしれない別の人生」を考えさせる刺激的な1冊でもある。
ただ、60年代後半には日本でも大きな影響力を持っていた「市民社会論」がなぜ定着しなかったのか。それに対する当然の疑問への明確な回答が与えられていない点に不満が残る。 (酒)