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2013年8月 3日

【この1冊】『日中対立~習近平の中国をよむ』

中国研究第一人者による日中の冷静な分析

c130803.png著者・天児 慧
ちくま新書、定価840円+税

 

 著者は、早稲田大学の現代中国研究所所長を務める代表的な中国研究者である。日中関係が感情的、イデオロギー的に語られることが多くなっている現状に対して、日中関係を具体的資料や具体的発言に基づいて冷静に分析している。

 「現代の日中関係」(第2章)、「中国外交の大転換」(第3章)、「尖閣の争点」(第4章)、「大国の自画像」(第5章)、「歴史の中の日中関係」(第6章)と分析したうえで、「人民解放軍尖閣上陸」という「最悪のケース」のシナリオ分析を行っており、この部分だけでも一読の価値がある。

 このシミュレーションは、中国が軍事力を行使する場合、次の3つの意図のいずれか、またはその組み合わせを前提に考えられている。①政治目的を実現するための威嚇、②尖閣諸島の奪取、③内政の混乱・政権への不満を外に向けるための武力行使。

 従って、これらの意図を顕在化させないようにすることが「最悪の事態」を回避する対応策となるわけだが、そのために何をすべきかについて明確に語られているわけではない。日中両国に存在する「武力衝突によって利益を受ける人々=武力衝突待望論者」の影響力を減殺することの方が重要だと思われるが、そこまで踏み込んだ発言はしていない。

 その意味で、学者らしい冷静で客観的な分析・発言は評価できるものの、「武力衝突待望論者」や「嫌中派」を説得できる論理や対応策に言及していない点には不満が残る。(酒)

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