地域医療の現場から日本の医療の問題点を直言
著者・村上 智彦
新潮新書、定価680円+税
本書の著者は、2006年に財政破たんが明らかになった北海道夕張市で市立総合病院の再建に尽力した医師・村上智彦氏。病院の責任者を引き受けてから再建するまでの奮闘とそのなかで見えてきた日本の医療の問題を綴った1冊である。著者が「本書ではあらゆる敵を名指しして、例外も聖域もなく徹底的に叩きます」と自負する(?)だけあり、行政、住民・患者、医療者、マスコミなどに通低する事なかれ主義・無責任主義への痛烈な批判から始まる。
たとえば、疲弊する地域医療の現状を省みず医療費抑制政策を進める厚生労働省に反論したかと思えば、前例・条例に縛られる夕張市役所や住民のお上への依存体質が財政破たんを招いたと喝破。事実を歪曲して報道するマスコミの自作自演構造も事態を悪化させる要因だと断じる快刀乱麻ぶりだ。
その痛快さには思わずにニヤケてしまうが、「自分の健康を自分で守るという意識がなく、医療に丸投げして生きていたら健康や長寿は望めない」との指摘には患者側としてドキっとさせられることもしばしば。
もっとも、鋭い批判の裏には、予防医療のなかで1次予防が最も経費が安く、効果的だという信念がある。患者との密接なコミュニケーションによって行動変容を促し、地域の健康度を上げ、医療費を下げてきた実績があればこそ説得力をもってくる。
最終の第3章では、無事、再建の軌道にのった病院を辞し、新天地で「病と戦う医療」から「地域や在宅で患者を支える医療」へ向けて取り組む活動も紹介されている。
患者、保険者、医療関係者、誰にとっても本書の直言に思い当たるところがあるはずだ。良薬は口に苦し。地域医療の最前線に立つ氏の処方をぜひ受けてほしい。(アドソ=「健康保険」5月号より)