現代演劇界の旗手によるコミュニケーション論
著者・平田オリザ
講談社現代新書、定価740円+税
著者は国際基督教大学在学中に劇団「青年団」を結成し、戯曲と演出を担当。その後も劇作家として活躍しつつ、演劇のワークショップを主宰するなど、現代演劇界の旗手である。現在は大阪大学コミュニケーションデザインセンター教授でもある。
著者によれば、現在、「世間では、ただ漠然と『コミュニケーション能力』が、やみくもに求められている」が、「分かり合えないところから出発するコミュニケーションというものを考えてみたい」として、「成熟型の社会では、多様性こそが力になる」ため、「みんなちがって、たいへんだ。しかし、この『たいへんさ』から目を背けてはならない」というところから教育をスタートすべきだと説く。つまり、「人間は分かり合えるものだ」という先入観を捨て、「分かり合えないところから歩き出そう」と説いているわけだ。
確かに、グローバル化する世界の中で、現在最も求められているのは「異文化理解能力」であり、その中でも「人間関係形成能力」や「合意形成能力」が重要だとしても、それをどのようにして獲得するかについては、演ずることの重要性が強調されるだけで、納得できる方法が提示されているわけではない。
ただ、著者は演ずることの役割を説きつつ、「私たちは多様な社会的役割を演じながら、かろうじて人生の時間を前に進めていく」ことを認識しながら、「子供たちには、本当の自分を見つけなさいと迫るなら、それは大人の妄想だろう。」とも言う。
いずれにしても、多様化する社会の中でコミュニケーションの重要性を考えるすべての人にとって、本書が価値ある1冊であることは間違いない。 (酒)