戦中派作家による「日本滅亡」の警鐘
著者・野坂昭如
NHK出版新書、定価700円+税
著者は神戸大空襲を経験した「戦中派」の代表的作家。テレビなどのメディアでも活躍していたが、2003年に脳梗塞で倒れ、その後は、左半身マヒの体でリハビリに励みつつ、筆談で文章を書き続けている。以前から戦中の経験などを基に、戦後の日本の在り方を批判し続けてきたが、その集大成とも言える「日本終末論」である。
「この世はもうすぐお終いだ」(第1章)、「食とともに人間は滅びる」(第2章)、「すべてのものに別れを告げよ」(第4章)、「また原発事故は起こる」(第5章)、「上手に死ぬことを考える」(第7章)、「安楽死は最高の老人福祉である」(第8章)、「日本にお悔やみ申し上げる」(第9章)など、徹底的な終末論が語られる。語り口は徹底しており、安易な希望、救い、解決策などは一切示されない。それがむしろ、閉塞感にとらわれている読者に一種のカタルシスを与えてくれる。
もともと著者は自らの悲惨な戦争体験を基に、戦後の日本の高度成長過程を批判してきたが、脳梗塞の後遺症のリハビリを10年近く続けながらも、その批判精神はますます研ぎ澄まされてきた感があり、いわば「滅亡教の教祖」のような風格さえ備わってきたかにみえる。
著者と同じリハビリ病院に通う同病者で、ひそかなファンでもある私としては、「滅亡教の教祖」ではなく、現在、社会にあふれている知識人、政治家、批評家、学者らの欺瞞(ぎまん)や偽善を徹底的に告発する「必殺仕事人」になってほしいと強く望んでしる。
同時に、著者の批判は常に「正論」であり、「正論だけでは世の中は変わらない」ということも、とりわけ若者には理解してほしい気もする。 (酒)