団塊世代による「近代日本」再検討論
著者・佐伯 啓思
新潮新書、定価720円+税
雑誌『新潮45』に2011年9月から12年5月に『反・幸福論』として連載されたものを加筆・改変したもの。全体に、明治維新以降の日本の歴史を再検討する形になっている。
著者によれば、日本人が黒船を見て「これに対抗できる戦艦を作らなければ」と思った時点で、「開国」から大東亜戦争への道は必然だった。「軍隊」を持たないと定めた戦後の平和憲法と、安全保障を米国に肩代わりしてもらう日米安保条約はワンセットであり、一部左翼が主張してきた「護憲と反・安保条約」は矛盾している、と言う。
さらに、米軍の占領時代はGHQによって日本は主権を奪われたが、そんな国が自国の主権者を定める憲法を制定することが可能なのか、と問う。要するに、日本の近代史は常に背後にいる米国の下で動いてきた、というのが著者の一貫した主張だ。
日本は、経済的ピークに到達した1980年代も、冷戦終了後の90年代も、ほぼ無意識的に米国への「自発的従属」を繰り返してきた。つまり、本来の自立的独立国になり切れず、「精神の在り方」の軸が定まらないところに、今の日本の混迷の主因がある、と言うのだ。
では、どうすべきか。本書はそれついて一切触れていないため、読者は肩透かしを食うかもしれない。しかし、かつてはリベラル派・左翼の代表的論客だった著者が、保守派・右翼の歴史観とほとんど変わらない近代日本史観を述べていることを知るだけでも、現在の日本の思想状況を知る有意義な読書体験となるだろう。 (酒)