雇用のひずみの行く末は?
著者・今野 晴貴
文藝春秋、定価770円+税
違法な労働条件で若者を働かせるブラック企業。大量に新卒を採用し、過酷なノルマを課して、使えない人材から退職に追い込む(壊れるまで酷使する)という陰惨な実態は様々なメディアで報じられている通りだ。しかし、本書はそうした個別の告発レポートではもはや抜本的な解決に限界があるとし、社会問題からの論点整理を試みている。
例えば、ブラック企業がもたらすダメージは被害者個人に留まらず、その家族への影響、さらには精神疾患増大に伴う医療費、生活保護費の増大といった社会コストに積み上がっていくと分析している。第三者からすると「そんな会社、早く辞めれば?」とも思うのだが、罠に陥った本人は“非正規雇用への転落や貧困への恐怖”が呪縛になって状況を悪化させており、その点を捉えて就活指導のあり方にも課題を見出している。
一方、理不尽な業務命令や長時間残業などでは、日本型雇用の特殊性に原型があるとし、すべての企業がブラック化する潜在リスクも指摘する。病んだ社会の断面から改めて雇用を再考させられる。
(久島豊樹/HRM Magazine より)