「脱原発」を論じるための基本書
著者・大島 堅一
岩波新書、定価760円+税
東日本大震災と福島第1原子力発電所の事故から間もなく2年。事故をきっかけに日本中を論争に巻き込んだ原発の是非について、最近、社会の関心はやや薄れ気味だ。本書はそんなムードに一石を投じる。
著者は環境経済学を専攻する経済学者で、「反原発」の立場から原発の是非を、主にコスト比較から分析している。全5章で、「1.恐るべき原子力災害」から「5.脱原発は可能だ」まで、原発災害の特徴、被害補償制度、原発のコスト、原発の安全神話、再生可能エネルギーとの比較など、各種資料に基づいて詳細でていねいな分析を加えている。
その中で、政府などが公表している原発コストの計算は意図的に低くしていること、反対論者を徹底排除して安全神話を作り上げた「原子力複合体」の実態、原発に代わる再生可能エネルギーの開発が可能であることなどを、試算を交えて解説した。
経済界を中心に「脱原発」の困難さを強調する論調が目立つ昨今、「本当に困難なのか」と問い掛ける説得力を持つ。昨年の第12回大佛次郎論壇賞を受賞したのも納得できる。日本のエネルギー政策をどうするか、感情的な賛否ではなく、本書が提示しているような目先の利害にとらわれない冷静な議論が必要だと痛感する。 (のり)