下がり続ける「男の価値」
著者・永濵利廣
東洋経済新報社、定価1500円+税
副題は「『男の職場』崩壊が日本を変える」となっており、著者は「労働市場における男性の価値の低下」が「男性不況」の本質だと言う。同時に、それは女性の社会進出とコインの表裏の関係になっているとも指摘。気鋭のエコノミストの分析は明快だ。
著者は、「男の職場」の代表である製造業と建設業の労働人口の長期低減、男性の非正規労働者の増加に伴う「一家の大黒柱」の消滅、医療・介護など女性労働力を大量に吸収する産業の伸び、男女間の給与格差の縮小など、バブル崩壊以降に進んだ社会現象について、逐一、統計を使いながら丁寧に解説。それらを総合して「男性不況」と命名した。引いては、これが格差拡大につながり、晩婚化・未婚化を促進し、少子化に拍車をかけるという。
また、男性が主導権を握っていた車市場の縮小、女性向けの「女子会」やエステティックサロンなどの隆盛といった、消費市場に変化が生じていることも解説。イクメンも、稼ぐ妻を逃さないための夫の深謀遠慮ではないかなど、身近な事例にも触れていて面白い。
そして、「男性不況」からの脱却には、超円高の是正や法人税率の引き下げなど、輸出産業の多いメーカーの復権を後押しするマクロ政策の必要性を訴えている。
個々の現象は、これまで指摘されてきたことばかりで、それほどの新味はないが、それらをまとめて「男性不況」というネーミングを生み出したアイデアは評価できる。
ただ、「男性不況」が女性進出の裏返しという記述も多く、女性の社会進出が“問題”であるかのような印象を受ける部分も散見される。要は、豊かな社会の男たちがヤワになっただけではないのか。(のり)