日本人の中国研究者と中国人の日本研究者との対談
著者(対談者)・横山宏章、王雲海
集英社新書、定価740円+税
尖閣諸島を巡る日中の偶発的武力衝突すらあり得る危機的な状況の中で、「冷静な視点で日中関係を論じてほしい」という集英社の要請に応じて、中国研究者である横山宏章・北九州市立大教授と日本在住の日本研究者、王雲海・一橋大教授が冷静に対談している必読書である。
それぞれが、中国の立場と日本の立場を説明する「対論」となっているが、メディア報道だけではわからない論点が幾つか説明されており、反中や反日の感情論に一挙に走るのではなく、冷静に相手の立場や状況も考慮しながら対応すべきだ、と説く。
そもそも今回の関係悪化の発端は、領土問題の「棚上げ=現状維持」を国有化で改変したのは日本側だというのが中国の基本的立場であり、もともと「領土問題は存在しない」としている日本にとっては、騒げば騒ぐほど不利になる。したがって、問題に火をつけた石原前東京都知事は「愛国者」どころか、中長期的には日本の国益を害したことになる、との王氏の指摘に横山氏も賛同している。
また、「領土問題ほど、かっこよいことを言えば言うほど無責任を意味していることはない」「妙案は一つだけです。解決できないときは解決しない、棚上げする。将来合意できれば、共同開発です」などの王氏の言葉には説得力がある。ナショナリズムにとらわれ、「武力行使も辞さず」などと「かっこよいことを言っているすべての人々」に「冷静に」耳を傾けてほしいところである。
しかし、この状況を利用して自らの利権や願望を実現しようとする人々が、日中双方に少なからず存在することを考えれば、事態がそれほど簡単ではないことも事実である。
日本の場合、危機感をあおり、自衛隊の「国軍化」、核武装も含む装備の強化、憲法改正を目論む人々が少なからずいる以上、その“暴走”をどう防ぐか。一方、中国側は、共産党支配の正統性を維持するには反日や対日強硬論が不可欠な構造をどう改変していくか。これらが本質的な課題と言えそうだ。 (酒)