破綻寸前の年金制度に大胆提言
著者・鈴木亘
日本経済新聞出版社、定価1200円+税
少子高齢化が急ピッチで進む日本で、社会保障に対する国民の不安が日増しに大きくなっている。その代表が年金問題であり、現行の「賦課方式」(勤労世代の年金保険料を高齢者への年金支払いに充てる方式)では将来的に制度が破綻することは目に見えている。一方で、「保険料を納めても、どうせ年金なんかもらえない」とばかりに、国民年金保険料の未払い率は4割にも達しており、現役世代の年金不信は根強い。では、どうすればいいのか。
年金問題のエキスパートである著者は、まずこれまでの年金問題の欠陥を直視し、給付と負担を明確にした制度改革を目指すべきだと主張。具体的には、現行の制度では将来的に950兆円の支払いを約束していることになるが、年金積立金の取り崩しのペースが急ピッチなため、このままでは破綻は必至。保険料を大幅に上げるか、給付を大幅にカットするしかないが、それでは制度への不信感に輪をかけることになり、世代間の不公平感も緩和されない。
著者は、賦課方式による年金の「大盤振る舞い」を40年以上も続けてきた政府・与党が諸悪の根源として、その無責任を糾弾すると同時に、賦課方式以前に採用していた「積立方式」を復活させ、賦課方式で約束している支払いについては「年金清算事業団」(仮称)を創設して、事業団の仕事にする案を提言。かつての国鉄民営化をモデルにした“新旧分離”方式で乗り切ることを提案している。
ただ、賦課方式でも積立方式でも、現行の年金債務はそのまま残るため、事業団が引き継ぐ債務の穴埋めには消費増税だけでなく、年配世代の財産課税を強化するなどして、実質的に不公平を緩和する政策を提言している。
本書は半年以上前に書かれたものだが、混迷を深める年金問題の入門書としては格好の1冊。ただし、長期サイクルで考えなければならない年金問題だけに、複雑な計算式なども多く、「気軽に読める」書ではない。 (のり)