ビー・スタイル ヒトラボ編集長 川上敬太郎氏
年末年始の休暇は、いつもヘトヘトになる。
私の実家がある三重県は、今の埼玉県の自宅から470キロ離れた場所にある。家族を連れて車で往復するだけで、私にとっては相当な重労働である。しかし、それでもがんばってハンドルを握るのは、孫を待つ親の姿が浮かぶからだろう。私ができる唯一の親孝行である。
だが、それだけではない。田舎に帰るといつも何か新たな発見があることも理由の一つだ。今年もあった。
実家に着いた翌日、子供たちを連れて映画館に行った。麦わら帽子をかぶった少年が船長を務める海賊「麦わらの一味」が大暴れするアニメだ。「仕方がないな」とつぶやきながら子供たちを連れて行ったのだが、これが結構面白い。ワクワクドキドキ。ちょっとした発見だ。
しかし、本当の発見はこのあと。映画を見終わった子供たちのテンションは最高潮に達している。
「アイスが食べたい」
「ジュースが飲みたい」
「ゲームセンターで遊びたい」
4人の子供たちの尽きることのない欲望に振り回され、車の運転以上にヘトヘトになった。その時はたと気づいた。妻は毎日こんな大変な思いをしているのか、と。心底偉い人だと思った。この発見が今後の家庭生活に与える影響は大きい。
実家に帰った時に発見した過去一番の出来事があったのは、もう何年も前のことだ。今も現役で公文式の指導者を30年以上続けている母に質問した時のこと。
私「生徒にありがとうと言われた時と、感謝の言葉はないが生徒の学力が上がった時。どっちが嬉しい?」
母「そんなん、学力上がった時に決まっとるやろ!あほやなあ」。
当時私は、「ありがとう」と言われることを目標に仕事をしていた。それが間違いだとは思わないが、「ありがとう」よりも相手の利益そのものを喜ぶ考え方に真のプロのあり方を見た気がした。間髪入れずに即答した母は、その日以来、私の心の師となった。
私たちのように人材サービスに携わる者は、常に多くの人と接している。しかし、その人の本当に優れたところや学ぶべき点にどれだけ気づけているか。身近な人でさえ、新たな発見を与えてくれることがある。人材サービスの現場は、学びの宝庫に違いない。
そんなことを考えながら帰路のハンドルを握る。たまに帰る実家だからこそ、気づきが得られるのか。それとも実家に帰るたびに、少しずつ自分が成長しているのか。次に帰った時、一体どんな発見が待っているのだろうか。
ワクワクする気持ちが、いつの間にか、冒険に繰り出す麦わらの一味の気持ちにオーバーラップしているような錯覚を覚えた。