コラム記事一覧へ

2013年1月12日

【この1冊】『資本主義の「終わりの始まり」』

ローマ在住のジャーナリストによる南欧危機報告

c130112.png著者・藤原章生
新潮選書、定価1300円+税

 

 著者は2008年~12年の間、ローマ支局長を務めた毎日新聞の記者だが、急逝したギリシャの映画監督、アンゲロプロスの言葉に導かれるように、ユーロ危機の震源地であるギリシャ、イタリアの現場報告をする中で、イタリアの哲学者アガンベンの言葉に出会い、未来への「扉」を開くのは今は危機に陥っている地中海圏ではないか、と説く。

 著者は言う。「アガンペンの言葉を借りれば、資本主義とは永遠の経済成長と言う非合理な宿命を脅迫のように背負わされた宗教」である。従って、その脅迫が続く限り、国は国債を売り続け、債務を延々と積み上げ、借金を返済できなくなると「月給の3割減」など、一律の緊縮策を取らざるを得なくなるのだ。

 「一律の負担を強いられれば、失業者や貧困層、社会保障で何とか生きてきた人々の生活が最初に立ちいかなくなる」「地中海圏はすでにその状態にはまり込み、どうあがいても抜け出せない状態にある」。だからこそ、次の時代への「扉」を最初に突き破るのも地中海圏ではないか、と言うのが筆者の結論だ。

 ただ、ギリシャやイタリアの危機が資本主義原理の下では解決できないものだとしたら、それに代わるどのような原理が解決策になるのか。また、イタリアを中心とした地中海圏がなぜ未来への先兵になり得るのか、必ずしも明確ではない。従って、表題に引かれて本書を手にしても失望する人がいるかもしれない。しかし、ギリシャ、イタリアで何が起きているかを知るには有益な1冊であることは間違いない。 (酒)


 

PAGETOP