「ユーロ崩壊」の予測とそのシナリオ描く
著者・竹森 俊平
日本経済新聞社出版会、定価890円+税
2008年のユーロ危機発生以来、ユーロの将来について多くの本が書かれてきたが、そのほとんどすべてが、戦後50年にわたり、さまざまな困難を乗り越えて来た「欧州統合」が崩壊するはずがないという希望的観測を結論としていた。本書は、市場で以前からささやかれていた「ユーロ崩壊」のシナリオを真正面から予測し、論じている。
著者は『経済論戦は甦る』で「第4回読売・吉野作造賞(03年)」を受賞した気鋭の経済学者であり、アジア金融危機について書いた『1997年―世界を変えた金融危機』、米国のサブプライムローン危機について書いた『資本主義は嫌いですか』に続く待望の欧州論が本書である。
著者によれば、ユーロはもともと、為替の安定と金融政策の統合を維持しながら、各加盟国が財政政策の自由度を維持するのは不可能という構造的・根本的問題を抱えてきた。「ユーロ維持」のためには、最強国・ドイツが長期にわたって南欧諸国に対する財政支援を続ける必要があることが明白になりつつあり、支援を受けるにはドイツの意向に従うしかない。これは実質的な「ドイツ帝国の復活」であり、他諸国のドイツに対する政治的・経済的反発が高まるため、「ユーロ維持」より「ユーロ崩壊」の可能性が高まっているという。
二つの世界大戦の経験を踏まえ、ドイツを囲い込んで「欧州の平和と繁栄」を実現しようと構想された「欧州統合」の焦点が、またまた「ドイツ問題」に回帰しているのだとすれば、歴史の皮肉と言うしかない。しかし、仮に著者の予測するような「ユーロ崩壊」が発生すれば、世界の政治・経済が大混乱に陥ることは明らかであり、日本としても座視できないであろう。
領土問題をきっかけに東アジアの政治や安全保障問題ばかりを議論している人々に対して、本書は「欧州を忘れるな!金融危機は解決されていない。選挙、選挙と騒いでばかりいないで、世界的金融大激震の可能性にどう立ち向かうか政策を考えろ」と冷や水を浴びせており、日本を含む世界の政治経済を考えさせる必読書だ。 (酒)