歴史に学ばないリーダーたち
著者・半藤一利
文春新書、定価780円+税
リーダー論はいつの時代にもあり、それが企業のトップ、国家のトップともなると自薦他薦を含めて百花繚乱。だが、その多くは精神論、あるべき論、わが体験論であり、説得力はいまいち。その点、本書は旧日本軍に実在したリーダー群と実例を数多く紹介しており、示唆に富む。
著者によると、近代日本のリーダー像を歴史にたどると、明治初期の西南戦争までさかのぼる。そして、定着したのが日露戦争における「陸軍の大山巌」「海軍の東郷平八郎」であり、両者の共通点は「威徳」。リーダーたる者は威厳と人徳があればよく、具体的な作戦は部下の「参謀」に任せておけばいい。
事実は違っていたというが、それ以後の日本軍は参謀の育成がもっぱらの課題に。必然的に勉学優秀だが、現場を知らないエリート層に偏ってしまい、それが太平洋戦争で数多くの作戦失敗を招き、敗戦につながった。
第1章「リーダーシップの成立したとき」から第5章「太平洋戦争にみるリーダーシップⅡ」まで、ダメ参謀の行状を容赦なく暴き出している。ノモンハン事件やインパール作戦など、現場リーダーの取った作戦を改めて確認するほどに、「こんなリーダーでは負けるに決まっている」と思ってしまう。
著者は、戦前の豊富な資料と生き残った軍人への徹底取材を通じて書いているだけに、非常な説得力がある。ほとんどが陸海軍の参謀事例集といった趣で、それがそのまま戦後の企業や国家のリーダー像に当てはまるかどうかは議論のあるところだろう。
が、東日本大震災で起きた福島第1原発の放射能漏れ事故をめぐる混乱について、旧軍部を引き合いに批判したくだりなどはまさにデジャヴュ(既視感)。歴史に学んでいない日本のリーダーたちを浮かび上がらせている。(のり)