ビー・スタイル ヒトラボ編集長 川上 敬太郎氏
実は忠臣蔵の討ち入りは、1月30日なのだそうだ。12月14日は旧暦らしい。
おかしいな、と思っていた。討ち入りは雪の日というイメージが強いが、雪国ならともかく、今の東京両国界隈で12月半ばに雪が降り積もる印象はない。あの討ち入りの厳かな雰囲気を醸し出すには、降り積もった雪が不可欠。1月末ならうなずける。
私にとって大石内蔵助といえば緒形拳さんである。「峠の群像」というNHK大河ドラマだ。敵役の吉良上野介は伊丹十三さん。
おそらく、当時小学生だった私に、とても強烈な印象を与えたに違いない。吉良役の伊丹さんの演技がとても憎らしく、後に「マルサの女」などの映画監督として活躍されてからも、しばらくは憎々しい感情が消えなかった。それだけ演技が凄かったということだろう。
忠臣蔵に雪が似合うと感じるのは、その物語が死を軸として展開されるからではないかと思う。浅野内匠頭の死から始まり、赤穂浪士四十七士の決意、吉良上野介の死、そして赤穂浪士の切腹……。雪の白さ清さと冷たさが、物語の情感を更に深めるように思う。
死を軸に展開される物語だが、必ずしも暗さを感じさせないのは、仇討ちといういかにも日本的な正義をテーマにしたサクセスストーリーだからであろう。そして、主君の恨みを晴らそうと命を賭して仇を討つ赤穂浪士の心に、多くの日本人は忠義の美徳を見出す。
命がけとまでは言わないが、私は人材サービス業界人にも同種の美徳を感じる。特に、最前線で求職者や求人企業と接している業界人は、忠義の精神の塊だ。
人材サービスは「クレーム産業」と揶揄(やゆ)されることもある。しかし、その多くは自分たちの過失ではない。求職者や求人企業それぞれの事情が変わったり、ハプニングが生じた時の調整に振り回されるのである。それが仕事だから仕方ないのだが、板挟みの連続は辛い。
求職者や求人企業の行為が原因でトラブルになったとしても、人材サービスの業界人は頭を下げる。日常がそれだから、忠義の精神がなければ務まらない仕事なのである。
しかし困ったことに、忠義心のかけらもない輩も存在する。求職者の安全を無視して、自社利益のために平気で危険な業務に従事させたり、悪質な違法行為に加担したり、人を商品(モノ)のように扱ったり。
人材サービスの材の字は「才能」の意である。それを「材料」の意でとらえている。そんな輩に人材サービスを行う資格はないのだが、残念ながら一見するだけでは見抜くことが難しい。
結局は心根の問題に行き当たる。赤穂浪士の仇討ちも、主君の恨みを晴らすための忠義の精神があるからこそ美徳となる。心のあり方は、人材サービス業界人の根幹的資質だ。
それは、純粋に求職者と求人企業双方の幸せを願う、雪のように真っ白な心である。