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2012年11月15日

木曜日のつぶやき46・大沢崩れ

ビー・スタイル ヒトラボ編集長 川上 敬太郎氏

 国会議員って、みんな寝てばかりいるんだよね―――。

 たまたま見ていたテレビに国会議員の姿が映し出された時、小学生の長男が発したその言葉にハッとした。バラエティー番組だけでなく、時には報道番組でさえ国会議員を揶揄(やゆ)する居眠り映像を流す。

 会社員だって会議で眠くなったりするのだが、国民の票を集めた先生方の居眠りが映し出されると話は別。自分のことは棚に上げて腹が立ってくる。我々小市民の素直な心理だ。

 しかしそれは、ひと通りの知識と経験を備えた大人だから通じる話である。まだ年端もいかぬ小学生が「寝てばかりいる」と言う場合、それは本当にそう思っているのではないかと感じてハッとしたのだ。

 私はその場ですぐ、多少強めの口調で子供を諭した。

 確かに国会中に寝ている議員は存在すること。それは良くないことであること。しかし、多くの国会議員はそうではないこと。居眠りしている映像が繰り返し放送され、お前はそこばかりを見てしまったのだ。与えられた情報だけをうのみにするな、と。

 子供は、ふーんそうだったんだ、と頼りない返事をした。わかってくれたようだったが、何か気持ちが悪い。そこで理解を深めるために何か良い方法がないかと考えた。すぐに思い浮かんだのが富士の大沢崩れ。そうだ、大沢崩れを見に行こう!

c121115.JPG 大沢崩れとは、富士山の西側にある大きな侵食谷である。初めてその画像を見た時、私は一瞬目を背けた。子供のころから富士山に魅了されてきた私にとって、富士は完璧に美しい山でなければならなかった。それだけに痛々しいほどの崩れ方を見てショックを受けた。

 物事は角度を変えて見ると、全く違った事実が浮かんでくることがある。大沢崩れは、強烈なインパクトと共に、私にそんな大切なことを教えてくれた。うちの子供たちも富士山が大好きだ。それならば、同じような学びの機会となるかもしれない。

 2008年の暮れ、「年越し派遣村」が一斉に報じられたころ、日本中の派遣社員が路頭に迷い、日比谷公園に結集したような印象を与えた。しかし、派遣村に訪れた人で、実際に派遣社員だった人は3割にも満たなかったと言われている。情報とは、かくも危うきものである。

 多面的に情報を取ると理解が深まる。大沢崩れの存在を知った後、私はより深く富士に引かれるようになった。日ごろ見る美しい富士に、体の一部が大きく崩れながらも、一生懸命生きようとしている魂を感じるようになったからだ。

 車で片道3時間半。よさそうなポイントで車外に出て、寒い中、2時間の雲切れ待ち。ようやく姿を現した大沢崩れを見つけて、子供たちを呼び集めた。その間、空き地で走り回っていた我が子らに、果たしてどこまで真意が伝わるものか……知る由もない。

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