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2012年11月17日

【この1冊】『社会を変えるには』

社会を変えたい人のための初級入門講座

c121117.png著者・小熊英二
講談社現代新書、定価1300円+税


      
 517ページに及ぶ新書本としては異例の大著。その大半は社会運動の変遷(2、3章)と民主主義を中心とした政治思想の解説(4、5、6章)であり、これらを手っ取り早く概観するには便利な入門書だ。

 第1章は、日本の現状と脱・原発運動の位置付けに触れながら問題提起し、最終の7章で自らのデモへの参加経験を踏まえた具体的な運動論を展開している。

 ただし、著者は自ら断っているように社会運動家でも社会運動理論や政治思想を専門とする研究者でもなく、「社会を変えることがどういうことなのか。歴史的、社会構造的あるいは思想的に考えてみようという趣旨だ」としている。

 著者によれば、「民意」がこの世に表れてきた瞬間、自分の悩みに答えが見えてきた瞬間、生き方を変える具体的方法をつかんだ瞬間、人は「まつりごと」の領域に入り込み、「感動=行動」するのであり、1960年には安保条約、68年にはベトナム戦争、2011年には原発がそうした役割を果たした、と言う。

 例えば、11年からの脱・原発のデモ、で多くの人が望んでいたのは次のようなことではないかと説く。①自分たちの安全を守る気もない政府が、自分たちをないがしろにし、既得権者だけの内輪で、すべてを決めるのは許せない②自分の声がきちんと受け止められ、それによって変わっていく。そんな社会を作りたい③無力感と退屈を、物を買い、電気を使ってまぎらわせていくような生活はもうごめんだ④その電気が一部の人間を肥え太らせ、多くの人の生活を狂わせて行くようなやり方で作られている社会は、もういやだ――。

  もちろん、多くの反論があるだろう。ただ、日本の国益や歴史の正当性を絶対的価値観として押し立て、それに賛同しない者を「非国民」扱いする最近の「右翼的知識人」の言動に閉口している向きには是非とも一読を勧めたい。冷静になれる。 (酒)

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