依然として明確にならない「ポスト近代」像
著者・水野 和夫
太田出版、定価1600円+税
前著『終わりなき危機 君はグローバリゼーションの真実を見たか』はそれまでの著書の集大成的労作で、536ページに及ぶ大著。読み終えるにはかなりのエネルギーを必要としたが、本書は「水野経済論」を手っ取り早く理解するには最適の1冊。しかも、主な用語には丁寧な脚注が付いており、日本経済や世界経済の予備知識がなくても簡単に読み進めることができる。
著者によれば、1970年代以降から現在に至る歴史は、15世紀後半から17世紀前半(米社会学者、ウォーラーステインの言う「長い16世紀」)までの中世荘園制・封建社会から近代資本主義・主権国家システムへの大転換期と同様な事象が発生しつつある、という。
具体的には「利子率革命」(=利子率の長期低落)、「貨幣革命」(=基軸通貨の低落)、「価格革命」(=デフレの持続)、「賃金革命」(=労働分配率の低落)という「四つの革命」であり、「長い16世紀」に発生した「四つの革命」が70年代以降のいわば「長い21世紀」にも発生しつつある。従って、いま先進国が直面している危機は、「近代」という時代が限界を迎えることによって生じた必然的な結果だと言う。
その上で、この歴史の大転換にどう立ち向かうかについては、「地方に根差して」「自己完結型」で「定常社会」を前提にするような「新たな社会モデル」を模索しなければならない(第三章)、と述べている。しかし、前著と同様に「ポスト近代」のイメージは必ずしも明確ではない。
著者に限らず、現代が歴史的転換期にあることを説く論者は多いが、「ポスト近代」の明確なイメージを提示している論者は見当たらない。新しい理念や思想が求められるゆえんである。 (酒)