新進気鋭の思想家による現代の大恐慌論
著者・柴山 桂太
集英社新書、定価740円+税
著者は最近売り出し中の若手思想家で専門は現代思想、現代社会論。
2008年以降のグローバル金融危機は1930年代のような「恐れ慌てる」というパニック状態にはなっていないため、「穏やかに」見えてしまうが、これは、各国政府がなりふり構わず巨額の資金投入を行い、危機の激発を抑えたからに過ぎず、その本質は世界大恐慌にほかならないと説く。
類似の議論を展開する多くの他の論者と異なり、経済危機が政治・社会の危機を招いており、通貨の切り下げ競争や保護主義など、30年代に似た状況となりつつあることに警鐘を鳴らしている。
特に、「世界の経済の結びつきが強くなった結果、国家は簡単に戦争に訴えることはない」といったリベラリストの楽観論に対して、「30年代にも同様の議論があった」と指摘。さらに、「かつては金本位制という国際金融システムに問題があったが、現在は金本位制ではないため、はるかに自由度の高い経済政策がとれる」という楽観論も戒める。
自由な金融政策は、必要以上の過剰流動性を市場に与え、巨額のマネーの流出入を招き、市場をかえって不安定化する、といった「意図せぬ副作用」をもたらし、「戦争の序曲となる通貨戦争」である通貨切り下げ競争をすでに招いている、と主張する。
世界恐慌の拡大を防ぐには、各国が内需を拡大させる以外に方法はないが、著者は「どこの国でもグローバル化により、格差拡大→中間層の没落が起こっており、内需拡大は容易ではない」と指摘。さらに、巨額の余剰マネーが石油を筆頭とする資源や食糧市場になだれ込めば価格高騰を招き、これらの確保のための衝突が起こる可能性が高い、という。
こうした状況に対する著者の処方せんは、「資本主義とは、投資によって人々が利用できる資本を増やしていく運動」であるから、「共同体の人間関係や組織の信頼といった、必ずしも貨幣に換算できない無形の資本」に対する投資を拡大すればいいというもの。
しかし、もともと「高い投資収益機会」がなくなってしまったために、それを求めて巨額の資本が世界中を動き回っている以上、「高い投資収益」を見込めない「無形の資本」に果たして投資が向かうかどうか、必ずしも説得的な解決策が提示されているわけではない。
いずれにしても、現在のグローバル金融危機を楽観視している層に対する、重い警鐘を鳴らす1冊であることは間違いない。(酒)