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2012年10月 6日

【この1冊】『フェルメール 夢想空想美術館』

フェルメールと“遊べる”楽しさ

c121006.jpeg著者・星野 知子
平凡社、定価1800円+税

 

 一般に、美術評論家・研究家と呼ばれる人たちの著作は、面白くない。絵画作品の詳細な解説はともかく、技法、画風、流派、時代背景、はては哲学的考察に至るまで、難解な用語と膨大な注釈付きの専門書など、当たり前だがシロウトは敬遠する(お値段もそれなりだし)。

 本書は、そんな学術書とは対極にある、「フェルメールの絵のユニークな楽しみ方」といった感じに仕上げ、「真珠の耳飾りの少女」などの代表作15点を取り上げた。むずかしい表現は一切なく、「耳飾りの少女」では青のターバンと光る真珠に対話をさせるアイデアで作品の魅力を伝えている。著者が絵の中に自由自在に入り込み、そこから時空を超えて実況中継しているような「夢想空想」の世界だ。

 しかし、単なる「夢想空想」ではない。作品に登場する人物はもちろん、カーテン、家具、床といった、通常は見落としがちな隅々にまで注意を向ける一方、17世紀オランダという時代が作品にどう反映されているかについても、さらりと随所に触れている。真珠がなぜあんなに光るのか、手紙を読む女性がなぜテーマになるのかなど、「な~るほど」と理解できる。確かに、光と影の描き方ひとつ取っても、同時代のレンブラントとは違いますよね。

 著者は知性派女優として知られるが、本書は『フェルメールとオランダの旅』(2000年)に次ぐフェルメール解説の第2弾。画家の生涯をたどって故郷のオランダ・デルフトを訪ね、散逸した作品を求めてヨーロッパを歩いた。画家への入れ込み方は尋常ではなく、本書もフェルメールを通した「星野知子ワールド」の趣が強い。

 本書の作りも15点はカラーだが、細部はモノクロで拡大しており、参考絵画を巻末に収めるなど、ていねいな編集ぶりが伝わってくる。(のり)

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