遺作取集に向けた情熱と苦悩
著者・窪島 誠一郎
集英社新書、定価760円+税
窪島誠一郎氏(作家の故水上勉の長男)が1997年、長野県上田市に開設した美術館の「無言館」について書いたもの。「無言館」は東京美術学校(現東京芸大美術学部)の戦没画学生の遺作を中心に収集、展示したユニークな美術館として知られ、本書は開館から4年後の2001年に出た。
戦没学生と同年代だった画家、野見山暁治氏と出会い、2人で遺作の収集を始めたこと。遺族のさまざまな反応や、開館直後のマスコミ攻勢。「反戦拠点」か「美術館」か、分かれた評価、などが率直に綴られている。
本書の中心は「無言館」に作品が展示されている戦没学生の経歴や遺族らの話に、作品などの写真を添えた部分。「画家のタマゴ」が出征前に描いた作品は、裸婦などの人物画、生物画、風景画などが多いが、中にはシュールリアリズムや日本画もある。
描いた人物は戦地から帰らず、作品だけが残った。この事実に、著者は「戦没画学生の絵は特有の静けさをたたえている」「無言を強いられるのは絵の前に佇むわれわれのほうといえるのかもしれない」と述べ、「無言館」のネーミングの理由を解説している。
戦没学生の作品としては『きけ わだつみのこえ』が有名だが、画学生の遺作という「無念の思い」を凝縮した作品の展示場を作った著者の努力も並大抵ではない。昨年、ドキュメンタリー映画も作られた。
「無言館」は別所温泉に近い「塩田平」の高台にあり、先にオープンした「信濃デッサン館」の分館としてスタート。塩田平は「信州の鎌倉」の別名があり、周辺には前山寺や安楽寺など鎌倉期の名刹が多い。ある種の「文化ゾーン」になっているが、入館者減による信濃デッサン館の不振が伝えられて久しい。窪島氏がともした灯りを消してほしくないものだ。 (のり)