真の課題は「環境と成長」
著者・大賀 敏子
ソフトバンク新書、730円+税
日本では「地球に優しい」が環境問題のほぼすべてであり、「環境」「エコ」といったキーワードは、水戸黄門の印籠よろしく、誰も文句は言えない。しかし、「“地球にやさしい”では世界は救えない」という副題にあるように、著者は「地球に優しい」だけでは不十分だと強調する。
最大の理由は南北問題。ケニア・ナイロビに本部のあるUNEP(国連環境計画)職員として、世界規模の環境問題に取り組んでいる著者は、「環境問題は開発問題」であり、「環境と成長の両立」こそが真の環境問題だという。
地球温暖化の主要因であるCO2を大量に排出するのは先進国と新興工業国の「北側」であり、「南側」の途上国にとってはCO2以前の経済成長と貧困の撲滅、生活の向上、社会の開発こそが環境問題なのだ。
本書は5章構成で、日本の環境意識のレベルは高いものの、途上国にとっては“夢物語”でしかない事実を指摘。また、このテーマは情報過多になっていることから、UNEPの活動を中心に世界の潮流をコンパクトにまとめている。
欧州経済危機や日本の原発事故などで、世界の関心はやや下火になっているが、こうした時こそ頭の整理に格好の書。息の長い地道な職務に携わっている日本人の存在に力づけられる。(のり)