日本人のホンネとタテマエを掘り下げる
著者・榎本 博明
日経プレミアシリーズ、定価850円+税
はっきり意見を言わない、曖昧な表現をする、理屈が通じない、ホンネが読めない、「察する」ことを求められる――。「ホンネ」と「タテマエ」の二重構造で成り立つ日本的コミュニケーションは、実にややこしい。職場の人間関係やコミュニケーションのとり方などで、一度は悩んだ人も多いのではないか。
しかし、長い歴史を通して日本に根付いてきたホンネとタテマエの二重構造は、そんなに簡単にはなくならない。だから、この二重構造を正確に理解し、うまく使いこなしていく必要があるという。
本書では、ややこしい日本的コミュニケーションの構造を深く掘り下げ、長所を再確認し、短所は改め、その生かし方を模索する。著者は心理学博士で、心理学に基づいて論理的に説明しているのでわかりやすい。また、文体が柔らかく、読みやすいのも魅力。
第1章は、私たち日本人が、毎日数えきれないくらい言ったり聞いたりする「すみません」について。自分は悪くはないのに「すみません」と謝ることがある。「すみません」には謝罪以上の深い意味があり、相手に対する「思いやり」と、「場」の雰囲気を良好に保つ役割を担っている。日本人が「すみません」を多用するのは、心の深層に「場」や「間柄」に重きを置くコミュニケーションのあり方が根付いているためだという。
タテマエでは無難なことを言いながらも、なんとか察してもらおうとホンネをほのめかす。相手もそれを察してくみ取り、はっきり言わない心遣いに感謝しつつ、できる限りの要望に応える。こうした、もどかしくもある日本人の思いやりに基づくタテマエだが、人間関係の潤滑油になっているのだ。なんて奥ゆかしい!
グローバル化が進む現代世界。本書から日本文化を深く理解し、自己のあり方を考えたい。 (聰)