超長期の視点に基づく「歴史的大転換」論の集大成
著者・水野和夫
日本経済新聞出版社、定価2800円+税
著者は証券会社のチーフ・エコノミストとして『100年デフレ』(2003年)、『人はなぜグローバル経済の本質を見誤るのか』(2007年)などで1970年代以降の歴史を超長期視点から「歴史的移行期」と説き、一躍注目を浴びることになったが、本書はその集大成。全536㌻に及ぶ大作である。ただし、本文は354㌻で、残る182㌻は詳細な注記と参考文献リストであり、いわば著者の「博士論文」の趣が漂う。しかし、著述は比較的平易であり、一般読者にも十分読みやすく書かれている。
70年代以降のグローバル経済の動きは、16世紀から17世紀の超低金利時代の西欧の動きと類似しており、現在は西欧の中世から近代への移行期に匹敵する「歴史的移行期」である。資本にとってのフロンティアである地理的・物理的空間を膨張させ、そこから高い収益を上げることによって成長してきた時代=近代、は終焉(えん)しつつある。
これが筆者の主張である。400年前と同様の「超低金利時代」が続いているにもかかわらず、現代も十分な利潤を上げられる投資先がなくなりつつあるからである。
従って、グローバリゼーションも単に「ヒト、モノ、カネの国境を越えた自由な動き」としてとらえるべきではなく、地球規模の「電子・金融空間」と新興国における「実物投資空間」を創出することにより、利潤率の向上をめざす動き、ととらえるべきだとしている。必然的に、これまでの通常型経済政策ではデフレや景気低迷は解決できない、という見立てになる。
随所に興味深い指摘があり、今後の世界を考える全ての人にとっての必読書ではあるが、「次の時代」に関する明確なビジョンがあるわけではない点に不満が残る。(酒)