ビー・スタイル ヒトラボ編集長 川上敬太郎氏
私の知る限り、人材派遣会社で働く者は仕事熱心だ。
長く右肩上がりの成長を経験してきた人材派遣業界は、働けば働くほど売り上げを増やすことができた。2008年に業界の売り上げがピークを迎えるまで、もっとも成長した企業に見られる共通の特徴は、わき目もふらずひたすら働く人間をいかに多く抱えてきたかという「数」の最大化だ。
人材サービス業界に長くいると、顔つきをみただけで入社したばかりの社員か、辞める寸前の社員かが瞬時に判別できるようになる。悲しい特技だ。辞める寸前の社員に共通する印象が、ボロぞうきんである。どんな男前でも、どんな美人でも、その印象は変わらない。
元来が薄利多売のビジネスである。いかに多くの案件をさばくかで評価される世界。しかも人と人との間で板挟みになりながら。精神的にも肉体的にもきつい。会社によって文化は違うが、上司に数字を詰められ罵倒されるような会社もある。
人材派遣会社の営業のクレーム処理の大半は、自分自身の過失ではない。派遣スタッフが起こした何らかのトラブルに対して頭を下げる。ある業界人は、「自分でコントロールできないもどかしさがある」とこぼした。
さらに追い打ちをかけるのが法制度の問題。派遣スタッフも派遣先も、双方が面接を望んでも事前面接は禁止されている。派遣スタッフも派遣先もどちらもお客様なのだが、そのお客の望みをかなえられないまま、無理なサービスをしなければならないジレンマがある。
夜遅くまで残業することも多い。派遣スタッフとの連絡調整は、派遣スタッフの仕事が終わって帰宅したあとに行われることが多いからだ。就業中の派遣スタッフに次の仕事を紹介する場合も然り。早く帰ってプライベートの時間に使いたいという気持ちをぐっとこらえて、日々遅くまで職務に当たる。
調子が良い時もあれば悪い時もある。それが人間だ。常に張りつめた状態で遅くまで仕事していれば疲れもたまる。しかし仕事の手を抜くわけにはいかない、と一生懸命やっていると…いつの間にかボロぞうきんのようになっている。
「風の谷のナウシカ」というアニメ映画のワンシーンでのやりとり。風の谷を侵略した軍の指揮官に、年老いた風の谷の住人が言う。「石のように固くなってしまったワシの手を、姫(ナウシカ)は働き者のきれいな手だと言うてくれる」と。
悪趣味だといわれるかもしれないが、私はボロぞうきんのような顔つきの社員を見ると愛おしくなる。それは働き者の顔に違いないからだ。そして愛おしさと同時に、別の感情が湧き上がってくる。そして、心の中で叫ぶ。
「たのむ、やめないでくれ!」と。