「介護」とはなにかを鋭く問う
著者・横田 一
岩波書店、定価1700円+税
介護疲れによる殺人や心中など、新聞などのニュースに接する機会が増えている。介護者の悲痛な心の叫びが、痛ましい事件の背景を物語っている。また、高齢社会の到来により、老後を施設で暮らすお年寄りも多く、施設内での転倒による骨折や誤嚥(ごえん)といった事故や、ヘルパーによる暴行事件なども増えている。
介護保険制度が施行されて12年が経った。サービスも拡充されてはいるが、このような事件や事故などを目の当たりにすると、制度としてどこまでうまく機能しているか首を傾げざるを得ない。「健やかに老後を暮らせるように」と設計された制度だが、その願いもむなしくなる。
本書は、介護現場で起こった事故などに関連した15件の裁判を取り上げ、介護を必要とする本人や家族、施設のヘルパーや運営者、行政担当者らに取材、構成している。介護保険制度や介護労働者などが直面している、現場のリアルな問題の根源を描く。
著者は元新聞記者。自身の母親を介護施設での事故で亡くし、介護事故裁判の経験を持つ。経験者ならではの視点で現状を捉え、裁判の経緯を通して、よりよい介護・ケアを検討する。
読み進めるうちに、「もし、自分が当事者だったら…」と思わず考え込んでしまう場面がしばしばあり、介護とは、ケアとはどういう意味をもつのか、深く考えさせられる。介護に携わる人だけではなく、若い世代にも一読してほしい。 (聰)