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2012年4月14日

【この1冊】『日本の大戦略―歴史的パワーシフトをどう乗りきるか』

国際政治学の権威5人による日本の基本戦略提言書

c120414.jpg編著者・PHP「日本のグランド・ストラテジー」研究会
      (山本、納家、井上、神谷、金子)
PHP研究所、定価2500円+税

 

 山本吉宣東大名誉教授を座長にした、国際政治学の権威5人による研究会の成果をまとめた書である。

 ちまたに思いつきの域を出ない提言が満ちあふれている中で、深い知見・分析を踏まえた提言が盛り込まれている。提言そのものは、2011年6月に発表済みのもの。

 「先進国/新興国複合体」や「国家のライフ・サイクル」など、学問的にも注目すべき概念が提示されているが、本文自体は一般の読者向けに書かれており、政策に関与する政治家や官僚だけではなく、日本の将来を考える全ての人にとって必読書となるであろう。

 ただ、研究会メンバーの専門分野が安全保障論であるためか、その軸足が安全保障にあり、「アメリカの覇権は当面続く」ことを前提に、「中国を中心としたアジアの重要性」は説くものの、「日米同盟最優先」という結論になっている。異論・反論も当然あるだろう。

 特に、07年以降のグローバル金融危機に関わる、通貨・金融面のアプローチや分析が弱い点に不満が残る。1997年のアジア通貨危機当時も、今回の欧州債務危機の時も、米国に主導されたIMFやG20(主要20カ国・地域)だけでは問題を解決できなかった。この事実をどう考えればいいのか、疑問が残る。

  ただ、本書の分析・提言が、今後の日本を考えるうえで、議論の出発点となることは間違いない。 (酒)

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