日本の優位性を江戸時代から読み解く
著者・徳川家広
NHK出版新書、定価780円+税
著者は国連の食糧農業機関に2001年まで勤務した政治・経済の評論家であり翻訳家。最近、日本に関する悲観論ばかりがはびこる中で、資本主義の本質とその変遷を読み解くことによって、日本の長期的な優位性を説く楽観論の書である。
著者によれば、アメリカ、欧州、イギリスなどの日本以外の先進国は、財政危機、金融危機、エネルギー危機、教育投資の激減などから、1人当たりGDPで見て、今日の中進国の水準まで経済力を低下させてしまう可能性が高いが、日本の場合は移民問題が存在せず、将来、移民を受け入れるにしても、その社会的費用はきわめて低いままであること。日本では分業と市場取引の基礎となる国民相互の安心感を、非常に長い時間をかけて形成してきたこと。
アメリカの覇権の消失や経済力の崩壊により、現在不毛な対米輸出に向かっている資金、人材、生産設備がより有意義に利用されるようになること。日本はエネルギー効率が世界で最も高い経済を誇っていることなどから、資本主義が終焉を迎え、日本が「唯一の先進国」となると予想している。
日本の経済力の基盤を江戸時代以来の①人的な「固定化」と秩序安定②人口増加と生産力の増大③中華文明の周縁部からの脱却④明治時代の戦争国家の産業化と不完全な資本主義、に求める発想は興味深い。
しかし、資本主義に代わる経済原理は何か、資本主義はなぜ終焉するのか、などの基本的な論拠が説得的に述べられているわけではない。このため、日本の優位性をランダムに指摘されても、その信憑性に疑問が残らざるを得ない。ただ、閉塞感に満たされた日本に対して贈る「応援歌」としての意義はあろう。 (酒)